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気になるデザイン

はかなく美しい~ミス・ブランチ~

 私が学生時代、就職活動の際に面接官から「あこがれるデザイナーは誰ですか?」という質問を受けました。その時、私は「倉俣史郎です」と答えました。新しい素材に挑戦していく姿勢とそれを見事に活かした美しい作品に憧れ、心から倉俣史郎のようなデザイナーになりたいと思っていました。
「倉俣史朗」は、一般の人にはなじみがないと思います。1970~80年代に活躍した今は亡き日本が世界に誇るインテリアデザイナーで彼が作品に追求したものは、日常や重力から解放されたかのような「夢心地感覚を現実世界に創出させる」ことだったそうです。無機的で冷たく粗野で痛い感のある建築資材のエキスパンドメタルをリズミカルに流れる曲面のように使った「スィング・スィング・スィング」といった椅子や、ソリッドのアクリル樹脂にバラの花びらを閉じ込めた「ミス・ブランチ」は、彼のコンセプトが見事に表現された傑作だと思います。
 特に、「ミス・ブランチ」の名は、戯曲「欲望という名の電車」の女主人公の名前から取られたそうです。ネーミングもそうですが、その製作工程も時間というドラマ性に満ちています。液状のアクリル樹脂のなかに薔薇の造花を入れ、そして、液体をゆっくりと硬化させ薔薇のまわりに生じる気泡を吸い取りながら製作される物です。極めてシンプル化されたフォルムの超近代的なアクリル樹脂という人工物と赤いバラの自然物との「対照性」。透明な塊の中で重力を消すように浮遊する可憐な花びらは、椅子であることを感じさせない椅子として「機能」と「非現実性」のバランスが保たれています。いつだったか、埼玉県立近代美術館で「ミス・ブランチ」を初めて見た時の衝撃は忘れられず、その美しさにとても魅入ってしまいました。
 ほとんど手作りに近く、高価(数年前にオークションで、1000万円以上で取引されたそうです)だったこともあって、「ミス・ブランチ」は、57脚しか製造されず、その数字は倉俣史郎の享年と同じだそうです。優れたデザインには、全てにそのドラマ性が感じられる物なのかもしれません。
最初の写真が「スィング・スィング・スィング」で、下の写真が「ミス・ブランチ」です。
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by atelierKC | 2010-12-09 11:48 | 気になるデザイン

情熱のデザイナーが、マチでみつけた気になるミセ・モノ・バショを紹介します


by ケーシー(KC)
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